受田宏之(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 国際交流センター長)

 

世界的な新型コロナウイルス感染拡大のため二度の延期を経て、2022年5月24日(火)と25日(水)の二日間、第一回小和田記念講座がライデン大学にてハイブリッド方式で開催された。初日は小和田恆氏による記念講演と国際政治学者Dominique Moïsi氏(ロンドンのキングスカレッジ)による基調講演があり、翌日はそれらを踏まえつつ、学生による討議セミナーと両大学の研究者が参加するセミナーが開催された。

記念講演をする小和田氏

記念講演をする小和田氏

初日は、最初にHester Bijlライデン大学学長からロシアのウクライナ侵攻など世界秩序の根幹が危ぶまれる状況下における小和田記念講座の意義について、さらに藤井輝夫東大総長からオランダの歴史的経験から日本が多くのことを学べるようにライデン大学との人文社会科学分野における交流の深化がもたらす効用について、それぞれご挨拶いただいた(藤井総長の挨拶はビデオメッセージ)。続いて、小和田氏の記念講演では、主権国家体制の成立から国際法の歴史と意義、課題とを論じた後に、普遍的な国際規範による統治を追求する理想主義も権力を持つ主体間の均衡が成立する条件を探る現実主義も適切とはいえないことから、21世紀の世界の平和と繁栄に資する学際的なアプローチの必要性を説き、それに本講座が貢献するという構想が提示された。続くMoïsi氏の基調講演“Emotions in International Politics(国際政治における感情)”では、国際関係において合理的人間像では把握できない感情の占める重要性が増していること、特に恐れや屈辱といった否定的な感情が世界各地で社会的分断や紛争の原因となっていることが、豊富な事例を挙げつつ論じられた。同日午後の部では、森山工東大教養学部長から、知らない「外部」に身をおくことで自身の価値観や規範を相対化し、他者への共感的理解を得るという人類学的なアプローチも国際問題の解決に有効であることが示唆されたほか、会場およびオンラインで参加した学生と教員から積極的な質問がMoïsi氏と小和田氏に対してなされた。

ハイブリッドでの森山研究科長スピーチ

森山研究科長のスピーチ

翌日は、午前中に両大学の学生が参加する討議セミナーが開催された。第一部(1時間半)では、ライデン大学のHilde van Meegdenburg氏とVineet Thakur氏より、Moïsi氏の講演について、感情の起源、合理性と感情を分ける難しさ、特定地域をステレオタイプ化する危険性、植民地主義の扱い等、興味深いコメントがなされた後、両大学の参加学生とMoïsi氏と小和田氏との間で質疑応答がなされた。第二部(1時間15分)では、第一部とは異なりライデン大学からの参加学生は修士課程の学生に絞られ、両大学の学生とMoïsi氏、小和田氏の間で、研究と実務の両立について活発な意見交換がなされた。午後は、馬路智仁氏(東京大学),Vineet Thakur氏とKaren Smith氏(ライデン大学)という3名の両大学の教員によるセミナー“International Relations and Race(国際関係論と人種)”が開催された。国際関係論という学問分野がその起源において人種主義と深い関係があったことについて、共にかつて植民地を抱えた日本とオランダ(南アフリカ)の事例研究も含め、重要な論点が示され、参加学生と教員との間で質疑応答がなされた。

小和田氏とモイジ氏による大学院生とのセッション

小和田氏とモイジ氏による大学院生とのセッション

オンラインでのセミナーの様子

オンラインでのセミナーの様子

スケジュールの都合で学生の討議セミナーに多くの時間を割けなかったこと、東大の学生は殆どがオンラインでの参加となったこと等、「若い世代に武者修行の場を与える」という講座の趣旨からみれば不十分な点はあった。しかし、国際法の研究や地域研究で知られ、世界中から留学生を引き付けるライデン大学と学際的なアプローチの有効性を共有できたという点では、初回の講座は成功であった。

 

 

リンク:

第1回小和田記念講座プログラム(2022年5月24日~25日)

小和田恒氏記念講演テクスト

ドミニク・モイジ氏基調講演テクスト

記念式典の動画は以下のURLからご覧いただけます。

https://www.universiteitleiden.nl/en/events/2022/05/owada-chair-inaugural-lecture